この投稿は、2020年5月7日にFacebookに投稿した記事を、一部修正した上、教室ブログにも掲載させて頂いたものです。

●ミュージックチャレンジ 音楽の受け渡しクラシック音楽の普及のためのミュージックランドからの音遊びです。参加するには、好きなクラシック曲を1日一曲で五日間5曲、そして1日1人だれか一人に繋げてください。

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ピアノ友達のT.A. さんから渡されたバトン、今日から1曲ずつ紹介していこうと思います。

2曲目:ラ・カンパネラ 

19世紀に活躍したピアノの貴公子フランツ・リストが、バイオリンの巨匠パガニーニのバイオリンソナタ第2番第3楽章のロンド『ラ・カンパネラ』の主題を編曲して書いた曲。

昨日はモーツァルトの「きらきら星変奏曲」について書きましたが、リストの「ラ・カンパネラ」も変奏曲と言って良いでしょう。Campanellaはイタリア語で「鐘」を意味します。たまにラ・カンパネルラとか言っている人を見かけますが(←昔の自分の事だったりもします 笑)、銀河鉄道の夜は関係ありません。

ラ・カンパネラはコード分析的な観点だけで言えば、曲の構成としては複雑ではありません。この曲の難しさは、とにかく跳躍が多いということ。それが華麗さにもつながるので、オーディエンスからすれば聴き栄えのする楽曲という事にもなるのですが、プレイヤーからすれば大変なのです。

ラウンジピアニストとしては、現場の演奏の中で、自分の技術の限界を超えたチャレンジをする事はまずありません。フィギュアスケートに例えれば、難関の4回転ジャンプなどのリスクは負わず、無難に2回転レベルの小技を組み合わせながら、選曲や構成で「いいねぇ!」と思わせれば良いのです。

ラ・カンパネラは私の感覚からすれば3回転・4回転ジャンプの連続。私はそもそも高速で派手なパフォーマンスを得意とするプレイヤーではないので、4回転は飛べないのです。それでも4回転に挑む意味は、4回転を成功する確率は低くとも、それが曲りなりにも上手くいくようになった時には、3回転の成功率が格段に上がり、現場でもたまに3回転を取り入れる余裕が出てくるということ。私がクラシックの難曲に挑戦する意味を、強引にフィギュアスケートに例えれば、そういう事です。

ラ・カンパネラに取り組む中で、思わぬ副産物を得ました。それは、右手の跳躍の練習をしていたはずなのに、左手の跳躍能力がいつのまにか向上していた事です。右上半身にケガを負ったスポーツ選手が、右半身は動かせないけど、リハビリとして左半身のトレーニングをするうちに、身体はつながっているから、右半身にも何らかのトレーニング効果が出る、というような話を聞いたことがあります(どなたか詳しい方がいらっしゃれば、こういう現象があり得るのか。あり得るならこの現象の名前は何というのかを知りたいです)。

ラウンジピアノで右手の跳躍で派手なパフォーマンスをする事は(私の場合)あまりありません。しかし左手では、さりげなく低いベース音を部分的に効かす事によって楽曲に深みを添えることができます。そのために瞬間的に結構な跳躍をしたい事もあるのですが、調子が悪いと、手が届く範囲で妥協することもあります。

リストのラ・カンパネラに取り組んだことで、この左手の跳躍がずいぶん簡単にできるようになりました。以前はどちらかと言うと、左手の跳躍に苦手意識があり、ストライドピアノなどの奏法は避けてきたのですが、最近では演奏がノッてくればラウンジの現場でも(うるさくならない程度に)取り入れますし、さりげなく低音を利かす場合も、まあまあの距離を跳躍しながらも適度なボリュームに抑えることも可能になり、ラウンジピアニストとしての表現の幅が広がりました。

真のクラシック愛好家からすれば、このような取り組み方は邪道かもしれませんが、クラシックの難曲に一点突破的に挑むことで、たとえ突破ならずも自身のスキルの全体的なレベルアップ及び有効な副産物を得る目的で、定期的に色々な曲へのチャレンジを続けております。

それでは、また次回。

今度はラヴェルの「水の戯れ」について書いてみます。