ブルーノート・レコード。ジャズ好きはもちろん、ジャズにはあまり詳しくないという人でも名前ぐらいは知っている正統派レーベル。今年はその創立80周年にあたり、そのアニバーサリープロジェクトの一環として作成されたのが、このドキュメント映画「ブルーノート・レコード ジャズを超えて」です。

今日は久しぶりに迎える完全なオフ日ということで、午前から妻と一緒に渋谷のBunkamura ル・シネマにこれを観に行ってきました。

映画の放映時間は85分。1939年の創業時から、現在に至るまでのブルーノート・レコードの軌跡が、貴重な証言映像(または録音)と、伝説的名演の音源で見事に編集され、実に見応えのあるドキュメンタリー作品に仕上げられていました。

せっかくなので、この感動をブログという形で、皆さまにもシェアできればと思います。伝えたい事が多く、一度に書くと長くなりそうなので、【前編】【後編】の2回に分けてお届けしようと思います。

本作品はドキュメンタリー映画なので、ブルーノートに関わった多士済々の面々からの証言映像や録音から編集されていますが、【前編】では、ブルーノートの経営サイドの証言から、その魅力をお伝えしたいと思います。

経営サイドの主な登場人物は次の通り。

創立者のアルフレッド・ライオン(プロデュース)、パートナーのフランシス・ウルフ(経理とレコードジャケット撮影)、ブルーノートを代表する伝説的録音技師ルディ・ヴァン・ゲルダー、1979年に一度活動を休止したブルーノートを84年に再興させた立役者ブルース・ランドヴァル、そして2012年に就任した現社長ドン・ウォズ

彼らの証言は、ブルーノートが如何にして、ジャズファンに深く愛される本格的レーベルになり得たのか、その真髄を明に暗に示してくれているようです。

そのエッセンスを簡単に紹介すると、こんな感じになるでしょうか。

・ブルーノートは、金儲けではなく、自分達がつくりたいものをつくることを大切にした。

・今までにない、新しく革新的なサウンドを常に求めた。(「ブルーノートは手垢のついたスタンダードなんて録音しない」byマイケル・カスクーナ ブルーノート研究家)

・そのために品質を徹底的に追及、リハーサルにもギャラを払った。(※当時そんな事をするレコード会社はなかった)

・とは言え、過度な口出しや干渉はせず、ミュージシャンに自由に表現する環境を与えた。

・ミュージシャンもそれに応えた。時に20テイク以上の録音を重ねながらも、妥協することなく、自分達から最高のパフォーマンスを引き出した。

・周りから理解されなくても、これと信じる対象には大金を投じた。売れなくても可能な限り信じるものを背後から支えた。(「ブルーノートがなければ、誰も多分モンクを聴いていないな。他のレコード会社、コロンビアやキャピトルのような大会社にモンクを録音する気はなかった。その辺りにいたのに録音しなかった。でもアルフレッドは録音した。」by ルー・ドナルドソン)

ブルーノートが残した珠玉の名演の数々は、こうした信条の賜物でしょう。それぞれの背景にあるストーリーを映画で観たことで、先人の偉大な取り組みに改めて感謝する次第です。

ブルーノートの軌跡を振り返ると、現代社会がどこかに置き忘れてきた哲学や美学のようなものを感じずにはいられません。ブルーノート作品のジャケットがいちいちカッコいいのは偶然ではないでしょう。

カッコ良さの源泉に、経営者の一人にして写真家のフランシス・ウルフの卓越した撮影センス、ジャケットを手掛るリード・マイルスの傑出したデザインセンスがあるのは勿論ですが、レーベルに関わる全ての人々に、ブルーノートがブルーノートたる信条・哲学・美学が共有されているからこそ、ジャケットからその世界観が伝わってくるのだと思います。

今回は、経営サイドの証言から、ブルーノートの魅力を探ってみました。

次回【後編】では、ブルーノートが残した名盤演奏に関わったミュージシャンの証言を紹介していきます。