前回ブログの続きです。ブルーノート・レコード創立80周年を記念したドキュメンタリー映画「ブルーノート・レコード ジャズを超えて」のレビューを、前回は映画に登場するブルーノート経営サイドの関係者の証言を元に紹介しましたが、今回は歴史的名演に実際に関わったミュージシャンの証言から見ていこうと思います。
ジャズ界でその名を知らぬ者はいない正統派レーベルだけに、出演者の顔ぶれが凄いです。ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターなどの重鎮にはじまり、現代の音楽シーンを牽引するロバート・グラスパー、ノラ・ジョーンズなど錚々たるメンバーが揃っています。
彼等の語る一言一言がとても深いので、映画そのものは85分とさほど長くはないのですが、精神的にとても濃密な時間を過ごした感覚がありました。
せっかくなので、珠玉の言葉をいくつか紹介させてください。
まずは、ハービー・ハンコックの言葉を
『音楽を通じて人生を描くとして
ゴールとは自覚していなくても
自分であり 自分を見出し
自分を表現する
それこそが人生だと思う
その道を皆と助けあって進む
それも音楽の理想とするところだ
レコード自体は不完全だ
聴いた人がいかに影響されるかという
人間の営為が含まれていないから』
うーむ、味わい深いです!
演奏者、聴き手のインタラクティブな関係があってこそ音楽は完全な形になるんですね。
次に、アート・ブレイキーの言葉
インタヴュアーの「ドラムは独学?」とい質問に対し
『そう なんでも独学さ
私の演奏に秘密はない
共演者に耳を傾ける
それだけだ
そしてグループの一部となること』
なるほど、とてもシンプル! でもその真髄を体現するのは難しい…
続いて、ウェイン・ショーターの言葉を
『勇気を持ち 恐れないこと
勇気は傷つくからチャレンジなんだ
勇気を奮うこと自体がチャレンジだ
けれど勇気を持って
チャレンジするほど
不確実なものが味方になっていく』
VUCAの時代に生きる我々への力強いアドバイスです!
そして、ケンドリック・スコット
『それぞれが主導権を争うのでなく
バンドに一体化している
私は彼らに身を委ねたい
ハービーやウェインと共に
しかし彼らは私の動きを持っている
それ次第で構図を決めるんだ
ジャズ・グループのとても重要なことだ
全員に主張があり 勇敢で
そして刺激に瞬時に反応すること』
こういうチーム、メチャクチャ強そうですよね!
まだまだ色々ありますが、ブログでの紹介はこのぐらいにしておきます。
個人的に面白い体験だったのは、これらの深い言葉の数々が、最近読んだこの本の内容ととてもリンクした事です。
■なぜ一流の経営者は即興コメディを学ぶのか?
即興芸術であるJAZZと、即興コメディの間には共通する点も多いのですが、本書は、アメリカで50年以上の歴史を持つ即興コメディ集団「※セカンド・シティ」の役員による執筆で、インプロビゼーション(即興)を成功に導くための「7つの要素」が紹介されています。
※セカンド・シティ …吉本興行にもノウハウを提供し、日本でも「THE EMPTY STAGE」として公演されています。これがとても面白かったので、本書に興味を持った次第です。
さて、本書にはインプロビゼーションに必要な要素として、①イエス、アンド ②アンサンブル ③共創、④真実性、⑤失敗(の活用)、⑥フォロー・ザ・フォロワー、⑦話を聞くこと、これらの7項目が紹介されています。個々の詳細に触れずとも、これらの要素がジャズにも共通するであろう事は何となく感じて頂けるかと思います。
各項目の詳細が気になる方は、本書を実際に読んでみて欲しいのですが、その中の1つについて触れてみます。
①の「イエス、アンド」とは、提示されたものを肯定し、さらに付け加えるという方法です。(そのアイディアに対するあなたの個人的意見がどうであれ)
これについて詳述した本書の一節で、個人的に令和で最も考えさせられたものがあり、それはこんなフレーズでした。
『イエス、アンドは、リーダーシップのあらゆる古典的理解と同じ基本原理から生まれています。それは、人は他者との協力によってより賢くなれる、ということです。その場で一番賢い存在にならなければ、という考えを捨てたとき、魔法のようなことが起きるのです』
強く思い当たる節がありました。
でも、この課題は私だけのものでもないでしょう。
個々のプレイヤーが、それぞれのベストを目指し、鍛錬し、研鑽を積む
これ自体は素晴らしい事!
問題は
こうしたプレイヤーが集まった時、次のどちらに傾くかです。
互いの意見に耳を傾けながら、良い形で触発し合い、個々の総和以上の価値を生み出せるチーム
OR
互いのエゴに固執し、警戒と牽制を繰り返し、大した価値を生み出せない割に体力と精神を著しく消耗するチーム
どちらのチームに所属したいか? そんなのは訊くまでもない愚問かもしれませんが、後者に付随する悩みを抱える人は少なくないのでは。
理想のチーム・ビルディングに通じるヒントは、ブルーノートのセッションの中にあるかもしれません。
チーム・ブルーノートの一流ミュージシャン達は、セカンドシティが説く「インプロビゼーションに必要な7つの要素」を、いとも自然な形で実践しているからこそ、あれだけのパフォーマンスができるのだろうな、とストンと腑に落ちるものがありました。
実際に映画の中で、こんなシーンがあります。
マイルス・デイヴィスとセッションしていたハービー・ハンコックのエピソード
『ある時64~65年のこと
その晩はすべてがうまくいって
私たちの演奏から音楽が溢れ
ピークに向かっていた
そしてマイルスのソロ
しかも見せ場で私は
見当違いのコードを弾いた
ひどい間違いだった
すべてが台無しだと思ったね
するとマイルスは一息入れ
いくつか音を吹いた
そして私のコードを正当化した
いったいどうやって?
私は土下座する思いだった。
私は誤りを裁いたのに
マイルスはそうじゃない
音楽の一部として聴き入れたんだ
おお これは新しいと言って
そしてうまく取り込んだ
こんな風に私は教えられた
音楽を維持するばかりか活用することを
様々な形で価値を生み出していく上で
裁かない心は重要な美徳だ
マイルス・デイヴィスの人生から
学んだレッスンだ
彼のグループから
そして瞬間的な営為から』
・・・カッコ良すぎです。
映画を通じて、私も学ばせて頂きました。
本当に素晴らしいドキュメンタリー映画です。
このブログに共感、あるいは興味を持って頂いたなら
ぜひ、本作をご覧になってみてください。
今回はこんなところで。
岩倉 康浩